ハーフディミニッシュについて 1

いわゆるハーフディミニッシュという和音にはいろいろ面白いことがあるので、思いついたことを何回かに分けて記したいと思う。


まず、ハーフディミニッシュとは、根音と、根音から短三度、減五度、短七度の音程にある音を集めてきた4和音のことで、マイナーセブンスの和音から五度の音を半音下げることで得られるので、マイナーセブンスフラットファイブともよく言われる。たとえばDを根音とすると:


ここで、∅7(単に∅だけのときもある)のような記法は、ディミニッシュを○で書くところから来ているのだろう。この和音は、たとえばM7やm7などに比べると少し出現頻度は低いが、これらと対等な役割を持ちうる和音だと思われるので、m7(b5)と長ったらしく書くよりも∅7や∅と書く方がスペースも省略できて私は好きである。



この記事では、この和音がいわゆる「ダイアトニックコード」(つまり調性音楽で音を紡ぐときの基礎とされる(4つの)音階から、1つおきに音を選ぶことで得られるコード)として現れるのはいつか、について見てみる。



まずメジャースケールについて見よう。試しにCメジャースケールを考え、「Cから順に音を1つおきに選ぶと、C,E,G,B となりCM7の和音が得られる」「Dから順に...」と続けてゆけば、この中にハーフディミニッシュが現れるのはB∅7のみであることがわかる:

(スケールの各音のうち音符に○がついているものを集めると右端の和音ができるという意味である)


この和音は、G7(G9)の根音省略形とみなして、Cへ解決するドミナントの役割を担っていると見なされることが多そうだ。



次にマイナースケールのうちナチュラルマイナースケール(自然的短音階)について考える。といってもこれはメジャースケールを異なる箇所から始めただけであるから、たとえばCから始まるナチュラルマイナースケールはEbから始まるメジャースケールと同じであって、上のメジャースケールについての観察から、ハーフディミニッシュが現れるのはD∅7のみである:




ただ、和音の役割としてはドミナントというよりは「マイナーツーファイブ」における「ツー」、すなわちサブドミナントとしての扱われ方が主だと思われる。マイナーツーファイブや、II∅7をドミナントとして見る観点もあるということについては他の記事に書く(II∅7をドミナントとして見ることについては、ネガティブハーモニーに関連した記事にも書く(例えば→A Child is Born と ネガディブハーモニー))。




さて、他のマイナースケールとしてハーモニックマイナースケール(和声的短音階)について見ると、この場合も、ハーフディミニッシュが現れるのはナチュラルマイナースケールの場合と同じ一カ所のみである:



この場合の和音の役割もマイナーツーファイブが主であろう。




最後に、あと一つのマイナースケールであるメロディックマイナースケール(旋律的短音階)を考えると、状況は大きく変わる:



このように、他の二つのマイナースケールと同じ箇所にはハーフディミニッシュは現れず、一方で他の場所に2箇所も現れることになる。

ハーモニックマイナースケールの場合との比較として細かく見てみると、まず、6の音がナチュラルになったことで、D∅7は作れずにDm7になってしまい、しかしその結果、A∅7とB∅7が現れているわけである。
このうちA∅7は、Cm6と構成音が同じであり、トニックとしての役割を持ちうる。
また、B∅7の位置には、ハーモニックマイナーにおいてはBdim7がおり、これはG7(b9)の根音省略形と捉えられ、それに類似した和音だとすれば、このB∅7の和音も、G7、すなわち主和音Cmに解決するドミナントとしての役割を持っていると説明することができる。

ただし、このような3つの短音階、とくにメロディックマイナースケールに関しては、あくまでも、主音に向かって低い方からアプローチするときの歌いやすさという横の流れを意識した結果生まれた音階である(と言われている)から、その中にこのような縦積みの和音の考え方を何の考えもなしに導入するのはあまり自然とは言えないかもしれない。
しかし、このような2つのハーフディミニッシュが、横と縦の考え方が交差するところに現れた一種の偶然の産物だったとしても、それを利用して面白い響きを作ること自体には意味はあるだろう。




今後の記事では、ハーフディミニッシュの「テンションノート」として何が考えられるか、マイナーツーファイブをどのように読み替えられるか、などのいくつかの話題について触れて行きたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿