ハーフディミニッシュについて 2

この記事では、ハーフディミニッシュに 9th を付け加えるとしたらどの音がふさわしいのかについて、考えたことを書く。


一般に 9th には♭9、♮9、♯9の3つの選択肢があることになっているが、このうち♯9はハーフディミニッシュのm3rdの音とかぶるので、考えないことにする。

すると選択肢は♭9か♮9の二種類ということになる。


どちらを選択するのがよいかの一つの判断材料として、この記事で見たように、ハーフディミニッシュがダイアトニックコードとして現れる場合にどの位置に現れるのかを思い出し、そのときのスケール上の音を選ぶことにしてみる。
ダイアトニックコードとしてハーフディミニッシュが現れるのは、
メジャースケールのVII∅7
ナチュラルマイナースケールのII∅7
ハーモニックマイナースケールのII∅7
メロディックマイナースケールのVI∅7、VII∅7
の5種類である。

これらについて、スケールで見て主音の1つ上の音が♭9なのか♮9なのかを見ると、
メジャースケールのVII∅7のとき、iの音はviiの音の半音上なので♭9
ナチュラルマイナースケールのII∅7のとき、iiiの音はiiの音の半音上なので♭9
ハーモニックマイナースケールのII∅7のとき、iiiの音はiiの音の半音上なので♭9
メロディックマイナースケールのVI∅7のとき、viiの音はviの音の全音上なので♮9
メロディックマイナースケールのVII∅7のとき、iの音はviiの音の半音上なので♭9
という風になり、メロディックマイナーのVI∅7のときのみ♮9、残りは♭9となる。


特に、ハーフディミニッシュがよく現れるマイナーツーファイブは、マイナースケールのII∅7の位置の場合なので、ダイアトニックコードと見なしてアヴェイラブルスケールから音を取るという考え方を使うならば、♭9を選択するのがよいということになる。



ただし、このようにスケールの構成音から機械的にテンションノートを選択すれば常にうまくいくということはない。たとえば、テンションノートの間で他のダイアトニックコードの響きが生まれ、コードの役割が曖昧になってしまったり、歴史的にはメロディの横の流れを意識して作られたスケールを縦に単純に積んでしまうことで、意識せず緊張感のある和音ができてしまったりするかもしれない(いわゆるアヴォイドノート)。
実際、マイナーでのII∅7で♭9thの音を足し、♭9thをトップに持ってくると、まずその音自身がマイナーツーファイブの解決先のImのマイナートライアドを特徴づけるm3rdの音であり、それを先取りしてしまうことになるため、II∅7→V7→Imと動く間、トップノートの扱いに困ってしまうし、根音との間に短9度の音程ができてしまい、響きが濁ってしまう。

マイナーツーファイブでのII∅7の♭9thの扱いは、たとえばずっと保つもの:

もしくはm3rd以外のコードトーンに移動させるもの:

解決先のトニックにもテンションを足し、そこへ移動させるもの:

なとが考えられるが、最後のはまだよいにせよ、上の2つではコードの響きの複雑さの度合いを一定に保ったままヴォイシングを作るのが難しい。また最後のものを採用する場合は、逆にV7やImでスケールから逸脱しているため、II∅7でわざわざ律儀にスケールから音を取ってきてテンションを作ると逆に浮いてしまうような気もする。



そこで、♮9を選択してみる。すると、半音ずつ下降して解決先の9thの音に向かう自然な流れが作れる:


この響きは、たとえばスタンダードの Stella By Starlight の冒頭などでとても頻繁に聴かれる:


こうしておくと、根音との間に短9度が生まれることもないし、マイナーツーファイブワンでのトップノートの動かし方にも困らない。さらに、アッパーストラクチャを見ると、II∅7のb5、m7、♮9からなるオーグメントのトライアドが、V7(b13)の1、3、b13からなるオーグメントのトライアドにそのまま半音下に平行移動されていて、そういう意味でもとてもスムーズである。

このように見ると、ハーフディミニッシュでは(和音に音を足して長く伸ばすという場合)♮9thを弾く方が扱いやすいと言える。(なのでハーフディミニッシュを見ると♮9thを弾いてしまいがちなのだが、フロントの人がスケールを中心に考えてソロを取っていると音がぶつかってしまい申し訳ない気持ちになる。)




最後に、ダイアトニックコードの考え方に基づいて♮9thを選択できる場合、すなわちメロディックマイナーのVI∅7と見なされるものがどのようなものかについて考えてみる。


たとえば、上で例として出した D∅7→G7→Cm の場合、D∅7をVI∅7として持つメロディックマイナースケールは F melodic minor である。
これは主調(=Cマイナー)から見て下属調すなわち4度調(のマイナー)であるから、CにいるときにFのマイナースケールから和音を作るという意味では、広義の「サブドミナントマイナー」と言える。
サブドミナントマイナーは常にサブドミナントの役割を持ちうるのだとすれば、Cmのマイナーツーファイブにおいて、サブドミナントであるD∅7で F melodic minor を想定し、♮9th(=E♮)を載せることも、そんなにおかしい話ではないと言える。

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