S.Rachmaninoff: Piano Concerto No.2 第1楽章第2主題におけるハーフディミニッシュ

ハーフディミニッシュに♮9thの音を添加することについて書いたが、そのような響きで私が思い浮かべるのが、ラフマニノフ作曲のピアノ協奏曲第2番の第1楽章の、変ホ長調の第2主題である。




上の動画の2分7秒からが第2主題、2分22秒あたりがA∅7(♮9)である。



譜面にすると以下の通り。


コードは便宜的に振った。
2段目の最後の小節の和音は、コードネームに直すならばA∅7で、左手の3拍目裏にはシ♮、すなわち♮9thの音が現れている。


思いつくままにいくつかの説明をしてみる。

キーはEbだから、平行調のCマイナーのメロディックマイナースケールから音を借りてきていると言える。
また、続く和音はEb/Bbであり、その意味ではEb/BbのBbを半音下げた「A,Eb,G」からなる和音が見た目上のA∅7であって、次の小節に移る時にAが半音上に解決しているとも言える(後述するようにA∅7をBb7に解決する(ドッペル)ドミナントのF9の根音省略形とみれば、F9の中のAとEbからなる増4度音程が、AがBbに、EbがDに解決してBb7になるわけだから、そのうちAからBbへの解決が先に起こって間にEb/Bbが挟まり、その後EbがDに解決してBb7が現れる、という風に「F9→Eb/Bb→Bb7」の流れを分析できる。すなわち、Eb/BbのBbを半音下げた「A,Eb,G」と見る見方もドッペルドミナントと見る見方と実質的に同じである)。


10小節にわたるこの第2主題全体について見ると、1小節目から7小節目にかけては、ゆるやかなEbペダルの上でEbと曖昧なドミナントが1小節ごとに交互に繰り返され、8小節目のA∅7をはさんでようやく9,10小節目はベースの音がBbになってしっかりとしたドミナントが現れて、11小節目以降の2度目の主題に続いていく。
その意味では、大きく見ると、1小節目から7小節目までがトニック、9,10小節目がドミナント、11小節目がトニックであり、8小節目はある種のサブドミナントと捉えることもできる。

このような大きな流れを意識すると、A∅7(♮9)を、EbのドッペルドミナントであるF9(#11)の根音省略形と見なし、
Eb→F9→Bb7→Eb
というT→DD→D→T(DDはドッペルドミナント)の進行を得る。和音の役割を意識した分析としてはこれが一番妥当だろう。



もちろんこの曲は「メロディとコードネーム」のような発想のもとに作曲された曲ではないが、むしろかえって、コードネームを元にヴォイシングを作る上でのヒントをたくさん与えてくれると思う。

2 件のコメント:

  1. 2段目の最後の小節は変ホ長調のドッペルドミナントのF上の7,9の和音の根音をオミットしたものと解釈するのがクラシック的には普通だと思います。Eb F7(9) Eb(四六)Bb7(ドミナント)Ebというごく普通の進行です。

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    1. 分かりやすくご指摘いただきありがとうございます!

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