クセナキスの「UPIC」について

昨日の記事の続きです。

20世紀の作曲家に Iannis Xenakis (ヤニス・クセナキス)という人がいます。
音楽と数学と建築を学び、幅広く創作活動を行った人物ですが、クセナキスが1970年代に開発した、一定の入力にしたがって音源を生成するコンピュータに、UPIC というものがあります。
UPIC における入力は、いわゆるピアノロールを拡張したようなもので、縦軸が音高、横軸が時間を表している平面にいくつかの曲線を描くと、それが音となって出力されます。ここで、縦軸は連続的な値をとることができ、その点で DAW などのピアノロールとは異なります。
また、音高以外に、音色や音量も制御できたようですが、それらは描く線の種類など、できあがる曲線そのものとは関わらない部分でコントロールされているようです。

UPIC を用いて作曲された曲のうちの一つ、Mycenae Alpha という曲の動画のリンクを貼ります。



この曲は高校生の頃に一時期おもしろがって聴いて(鑑賞して)いました。


さて、この「楽譜」は、縦軸方向の取りうる値が「C, C#, D, ...」のようなバラバラの値(ピアノロールのケース)ではなく、実数全体のような連続的な値になっているので、ある「音楽」をこの種の楽譜に表現すること(昨日の記事の用語では「モデル化」)は、2次元(ユークリッド)平面の上にいくつかの曲線を描くことと言い換えることができます。

すなわち、$\mathbb{R} \times \mathbb{R} = \mathbb{R}^{2}$ の部分集合であって、区間と同相なものの有限個の和集合として書けるものを考える、といったところでしょう。


さて、当たり前ですが、人間が絵を描けるのはせいぜい2次元平面の上です。なので、UPIC の譜面には「音高」と「時間」という2つの変数までしか含むことができず、音色は異なる種類の線を使ったり、音量は他に曲線を用意したりしなければならなかったのだと言えます。

ここで、音色を変える際に異なる種類の線を用いることは、そもそも考えている「グラフ用紙」 $\mathbb{R} \times \mathbb{R}$ を何枚か用意することと等価であり、その意味では、有限集合$X$を用意して、$\mathbb{R} \times \mathbb{R} \times X$ の中に、区間と同相なものを有限個集めてくる、ということと同じです。
また、音量について他に曲線を用意することは、たとえば各時点での音量というものを音高に関わらず一斉に制御するならば、上の「グラフ」のデータに加えて、各時間 $t$ に対して音量 $v(t)$ を対応させる関数 $v : \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}$ を考える、ということと同じです。


しかし、クセナキスの頭の中には、もっと立体的なアイデアがあったのではないかと自分は考えています。音高と時間という2変数の譜面を基本として、それに必要に応じて付加的なデータを与える、というのは、上で述べたように、おそらくは人間が平面にしか絵を描けないことなどからの制約によるものであって、本当は音色や音量なども連続的な変数としてあつかい、$\mathbb{R}^{3}$ とか、 $\mathbb{R}^{4}$ とかの中の曲線として音楽(ないしはより正確に述べるならば「旋律」)を捉えていくというのがより一般的な姿勢なのではないでしょうか。






上で述べたようなことは今までも星の数ほどたくさんの人が考えてきたことでしょうし、自分は体系的に音楽を学んでいないので音楽史を踏まえた創作ができるわけでもありませんが、昨日の記事でも述べたような、たとえば位相幾何学の概念などを援用した音楽のモデル化の体系を考えるにあたって、このクセナキスの UPIC が想起されたので、このように記事にしました。


ここから先は、組紐や結び目といった概念をもちこみ、またそれらの「同値」とうまく整合性の取れた「音楽」を生み出すにはどのようにすればよいのかについて考えてみたいと思います。

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