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音楽のモデル化全般について

「音楽」を抽象的にモデル化して考えるということは、日々、様々なレベルで行われている、というか、人間はそのようなことを介さなければ「音楽」を思考に落とし込むことができないと思われる。
ここで、抽象的にモデル化というのは、なにかあらかじめ与えられた変数(パラメータ)の組のようなものがあって、その個々の変数がどのような値を取っているか、ということのみに着目し、それ以外の要素は忘れ去るということである。

たとえば、音高と、発音、消音のタイミングのみに着目するというのは最も想像しやすいモデル化の方法であろう。DAWで打ち込むときのピアノロールがまさにこの発想であって、ここでは変数は、離散的な「音高」と、「時間」の二つである。
ここに加えて、音の強さや、音色(これは変数として処理するのはそれ以外のものに比べて難しいだろう)など、変数を増やしていけば、それだけ精密に「音楽」を書き表すことができる。変数のような発想とはすこしずれるにせよ、「五線譜」もモデル化の一種である。

しかし、いくら変数を増やしていっても、それはあくまで仮の姿であって、いつまでも「音楽」そのものと全く等価にはならない(であろうと僕は考える)。これについては意見が分かれるであろうが、ここをどう捉えるかはさておいても、人間の思考の題材とするためには、あくまでこのようないくつかの変数の組み合わせとして書くことで一度情報量を格段に落とす(モデル化する)必要があると考えられる。



上記の話を前提として、ここからはその「モデル化」の方法として、何か新しいものは作れないかということを考えてみる。その意図には、モデル化の方法の違いによって、「音楽」同士がどのような関係にあるか(近いのか遠いのか、似ているのか似ていないのか)の見取り図もまたすこし変わってくるであろうということがある。新たなモデル化を行うことによって、普段慣れ親しんでいる音楽のすぐ近くに、予想もしていなかった斬新な音楽が潜んでいることに気づけるかもしれない。


新たなモデル化の方法を考えるにあたって、「時間」という変数は必ず含めることにしたい。これには特に明文化できる理由はないが、音楽が本質的に時間の流れというものから逃れることができない以上、人間が音楽を捉えるときにも「時間」というパラメータは関わってくるだろう。
ただしここで、時間が一次元しかないとか、連続的だとか、そういうことは仮定しないことにする。あくまで、少なくとも一つ、t という変数があるが、それがどんな値を取りうるかは指定しないことにする。
便宜上、t が取り得る値の集合を T と置こう。通常は T は実数全体の集合 \mathbb{R} だったり、その中の区間 I だったりすることになる。

さて、そして、時間以外のパラメータのとりうる空間を X と置く。

すると、音楽のモデル化は、一番一般的な形としては、T から X への写像を考えることに相当する。つまり、各時間 t \in T におけるその他のパラメータの値の組 f(t) \in X が与えられている状態である。

また、関数のグラフを考えれば、直積集合 X \times T の部分集合 G であって、各 t \in T について X \times \{ t \} \cap G はただ1つの元からなるようなものを考えることと等価である。


たとえば、ピアノロールの例では、とりうる音高の集合を H とおくと、上でいうパラメータのとりうる空間 XH の冪集合(部分集合全体の集合) \mathcal{P}(H) のことである。そして、各時間 t \in T において、その瞬間に鳴っている和音 f(t) が、\mathcal{P}(H) の元、つまり H の部分集合として与えられている。


このようなモデル化一般のモデル化は固定して考えることにして、上記の X として様々なものを想定することによって、新たな音楽のモデル化、新たな作曲方法を考えてみたい。さしあたっては、T として通常の感覚通りに実数の集合 \mathbb{R} を想定し、 X として離散的な値ではなく連続的な値を想定することで、 X \times T を実多様体とみなし、その中の曲線として「音楽」を捉える、ということを通じて、何か数学における位相幾何学の概念を持ち込むことができないか、というのが当面のもくろみである。

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