ショパン『幻想ポロネーズ』に登場するディミニッシュスケール 1

ショパンの楽曲には、様々な意味で、ジャズのアドリブにも通じるような面白い音使いが随所に現れていると思います。特に、ディミニッシュにおけるモチーフの機械的な展開はとても興味深い上にバリエーションも豊富で、かつショパンに特有の香りも感じさせてくれ、ショパンの作品を特徴付けるものの一つになっていると言えるかもしれません。


この記事ではそのようなものの中から、モチーフの展開とは少し違いますが、いわゆる「ディミニッシュスケール」があからさまに現れている箇所を扱います。

ディミニッシュスケールはシンメトリカルスケールの一種で、そのような文脈での使用はメシアンら以降に顕著なのかもしれませんが、ディミニッシュスケール自体はもっと以前、たとえばショパンの作品にも数多く登場します。

ショパンの晩年の作品、『幻想ポロネーズ 変イ長調 Op.61』の128小節目からの4小節間は下のようになっています(エキエル版を元に Finale で打ち込んでいます)。


該当箇所を弾いたものです↓


前後の和音だけ示すと、127小節目は(大まかに)D7(b13)、132小節目はBm/Dです。

左手の和音は、前半は Edim7、後半は Gdim7 です。これらはルートが違うだけで構成音は全く同じなので、音使いの点ではこの4小節間はずっと同じ和音だと言ってよいでしょう。

その上で右手のフレーズを見ると、和声音、すなわち Edim7 = Gdim7 の構成音以外の音もたくさん現れています。

たとえば、128小節目の2拍目の16分音符3つ目までは、G,E,C# と和声音のみが現れていますが、C#から先の C#,C,Bb,A,G,F#,E,D#,C# は E のディミニッシュスケールを下降するものになっています。
また、その先、C#,Bb,G,Bb,C# まではまた和声音が続きますが、129小節目の2拍目の16分音符4つ目の F# の音などはまた非和声音かつ Eディミニッシュスケールの構成音になっています。


これらの様子を図にしたのが下のものです。


全ての音はディミニッシュスケールの構成音なので、上の書き方は少し語弊があるかもしれませんが、Edim7やGdim7と書いたところはあくまで和声音のみが現れる箇所、それ以外のところは非和声音も現れる箇所、ということです。

このように見ると、ディミニッシュスケールでの下降がまず一つポイントですが、それはあくまで滑らかな音の動きなので、そこまで違和感はありません。
それよりも、129小節目の2,3拍目にある跳躍進行の方が目を引きます。F#はEに、AはGにそれぞれ全音下に解決していると捉えるのが自然なのかもしれませんが、結果的に129小節目の2拍目に現れている G, Bb, C#, F# という音列はそれ自体面白いものがあると思います。


最後に全体的なコード進行の流れとしても見てみると、この次の和音が Bm/D であることから、単純に考えると、その直前は F#7 が想定されます。実際、F#7(b9) の根音以外の4つの音は Gdim7 をなしますし、F#7 自体も E diminished scale の中にすっぽり入っています。

ただし左手のルートはあくまで E や G なので、ここではドミナント7thの響きはあまり聞こえてこず、ディミニッシュが醸し出すシンメトリカルな浮遊感が勝っていると言えるでしょう。

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