数式のテスト: 12種類の音名を使った数あそびの枠組み

TeXソースを打つと自動的に数式を表示してくれるMathJaxというものを入れてみたので(導入はとても簡単)、そのテストも兼ねて、12種類の音(より正確には音名)を使っていろいろとパズル的に遊んでいくための枠組みを集合の記法を使って記してみたいと思います。


まず、音の集合を$T$と置きます。$T$は12個の要素からなり、それは以下の通りです。
\[
T = \{ C, C^{\#}, D, D^{\#}, E, F, F^{\#}, G, G^{\#}, A, A^{\#}, B \}
\]ただし、異名同音の煩雑さを避けるためここでは全てシャープで表記することにしています。

コードやスケールは全てこの$T$の部分集合であるとみなすことにします。たとえば、
\[
C_{\mathrm{m}7} = \{C, D^{\#}, G, A^{\#}\} \subset T
\]\[
A_{\mathrm{mel.min}} = \{C, D, E, F^{\#}, G^{\#}, A, B\} \subset T
\]などです(mel.minはメロディックマイナー)。

集合同士を見分けるとき、要素を書き並べる順番は関係ないので、集合として一致するという意味で、たとえば
\[
C_{\mathrm{aug}} = E_{\mathrm{aug}} = G^{\#}_{\mathrm{aug}} = \{C, E, G^{\#}\}
\]です。

また、このようにしておくと、あるコードがあるスケールのダイアトニックコードであるかどうかは(おおむね)集合同士の包含関係で考えることができます。たとえば、
\[
E_{7} = \{D, E, G^{\#}, B\} \subset \{C, D, E, F^{\#}, G^{\#}, A, B\} = A_{\mathrm{mel.min}}
\]であり、E7はAメロディックマイナーのダイアトニックコードです(「スケールから音を1つ飛ばしに取ってきたもの」になるかどうかについてはとくに言及できないため、ダイアトニックコードの定義によってはこれは不正確です)。


さて、$T$の部分集合を(1音だけの場合も)総称してスケールと呼ぶことにすると、スケールの個数は$T$の部分集合の個数、すなわち$2^{12} = 4096$個ということになります。空集合の場合は考えないことにするならば$4095$個です。

それらのスケールのうち、ある性質を満たすものはどのくらいの種類があるのか、ということについて、この枠組みで少し考えてみたいと思います。


性質にもいろいろな種類があると思いますが、まずはいわゆる「移調の限られた」ものについて考えてみます。この用語は作曲家のオリヴィエ・メシアンによるもので、Wikipediaにある程度詳しい解説があります。


例として、移調が4回可能なスケールについて考えます。移調が12回ではなく4回しか可能ではないというのはどういうことかと言えば、半音ずつずらしていって、5個目の「調」まで移調したときに、もとのスケールと完全に構成音が一致してしまう、ということです。
たとえば、
\[
C_{\mathrm{Tchel}} = \{C, C^{\#}, D^{\#}, E, F, G, G^{\#}, A, B\}
\]というスケールについて考えてみます。このスケールはメシアンの移調の限られた旋法の第三番の転回形で、ロシアの作曲家アレクサンドル・チェレプニンがよく用いた「チェレプニン音階」と呼ばれるものです。
これを半音ずつ上げていくと、
\[
C_{\mathrm{Tchel}} = \{C, C^{\#}, D^{\#}, E, F, G, G^{\#}, A, B\}
\]\[
C^{\#}_{\mathrm{Tchel}} = \{C^{\#}, D, E, F, F^{\#}, G^{\#}, A, A^{\#} C\}
\]\[
D_{\mathrm{Tchel}} = \{D, D^{\#}, F, F^{\#}, G, A, A^{\#}, B, C^{\#}\}
\]\[
D^{\#}_{\mathrm{Tchel}} = \{D^{\#}, E, F^{\#}, G, G^{\#}, A^{\#} B, C, D\}
\]\[
E_{\mathrm{Tchel}} = \{E, F, G, G^{\#}, A, B, C, C^{\#}, D^{\#}\}
\]となって、$C_{\mathrm{Tchel}}$と$E_{\mathrm{Tchel}}$は一致します。
この先も周期4で同じことの繰り返しなので、結局、「調」の違いは合計で4種類しかないというわけです。


さて、あるスケール$X \subset T$が「移調が4回可能」という性質を持つということを言い換えるとどうなるかを考えます。すると、上の実験などからもすぐに思いつくように、まず
全ての$X$の音に対し、その音の長3度(半音4つ分)上の音は再び$X$の音になっている
という条件が必要であることが分かります。この条件を少し言い換えるために、次のような集合と写像を考えます。

集合$T_{\mathrm{AUG}}$を、$T$の12個の要素を「長3度離れた2つの音は同じグループに属する」というルールで分類したときの、各グループの集合、と定めます。つまり、
\[
T_{\mathrm{AUG}} = \{ \{C, E, G^{\#}\}, \{C^{\#}, F, A\}, \{D, F^{\#}, A^{\#}\}, \{D^{\#}, G, B\} \}
\]です。集合を要素とする集合なので少し分かりにくいですが、上で導入したコードやスケールは$T$の部分集合のことだ、とする定義を使えば、
\[
T_{\mathrm{AUG}} = \{C_{\mathrm{aug}}, C^{\#}_{\mathrm{aug}}, D_{\mathrm{aug}}, D^{\#}_{\mathrm{aug}} \}
\]としても同じことです。

そして、$T$から$T_{\mathrm{AUG}}$への写像$p_{\mathrm{AUG}}$を、各音に対して、それが属するグループを対応させるものとして定義します。たとえば、
\[
p_{\mathrm{AUG}}(F) = \{C^{\#}, F, A\} = C^{\#}_{\mathrm{aug}}, \qquad p_{\mathrm{AUG}}(G) = \{D^{\#}, G, B\} = D^{\#}_{\mathrm{aug}}
\]などとなります。


さて、このようにすると、上で述べた「全ての$X$の音に対し、その音の長3度(半音4つ分)上の音は再び$X$の音になっている」という条件は、次のように言い換えることができます:
全ての音$x \in X$に対し、ある音$y \in T$が$p_{\mathrm{AUG}}(x) = p_{\mathrm{AUG}}(y)$を満たすならば、$y$も$X$の要素である
そして、この条件はすなわち、$X$が、$T_{\mathrm{AUG}}$のある部分集合の$p_{\mathrm{AUG}}$による逆像に一致するということです。よって結局、次のようなことが言えます。
あるスケール$X$が移調が4回に限られているとき、$T_{\mathrm{AUG}}$のある部分集合$S$が存在して、$X = p_{\mathrm{AUG}}^{-1}(S)$となっている。ある$S \subset T_{\mathrm{AUG}}$が存在して、$X = p_{\mathrm{AUG}}^{-1}(S)$となっているような$X$の個数は、$T_{\mathrm{AUG}}$の部分集合の個数に等しく、$T_{\mathrm{AUG}}$は$4$つの元からなる集合なので、その個数は$2^{4} = 16$個、空集合を除くならば$15$個である。
さて、これは単に話を言い換えただけで何も言っていないに等しいですが、今得られた15個のスケール全てが移調が4回の音階なのかどうかはまだ分かりません。というのは、移調が2回とか、1回とかしか可能ではないようなものも含まれているかもしれないからです。この点については別の記事で書くことにします。



6月の演奏予定の方もよろしければご覧下さい↓

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