「裏コード」は、
ドミナント7thを最も特徴づけているのは、ドミナント7thに含まれる増四度の音程をなす2音であり、そこからのトニックへの解決において本質的なのは、その2音がそれぞれ半音移動してトニックの和声音に解決する動きである
という観点から、その増四度音程を共有しているもう一つのドミナント7th=「裏コード」も同じ機能を持っている、という考え方です。たとえば、G7を特徴づけているのはFとBという2音であり、Cへの解決において、その2音を共有しているDb7ともとのG7とは同じ機能を有しているわけです。
一方、「サブドミナントマイナー」は、近親調からの借用和音の一種で、具体的には、長調において、同主短調のダイアトニックコードのうちサブドミナントの機能を有しているものを借用してきたものです。ここではその中でも、スタンダードにおいてもよく登場する次のような進行に注目します。
これはスタンダードの "I'll close my eyes" の9,10,11小節目を抜き出したものです(10小節目の前半のBbmin7は一般的ではないかもしれません)。この例では F に向かって進む和声進行として、 Bbmin7→Eb7 というツーファイブが現れています。このツーファイブは通常であれば Ab に解決するものですが、この進行の一つの解釈として、これは Ab Major ≒ F minor からの借用和音である、ということが言えます。
また、少し他の解釈としては、Eb7とC7は構成音が似ている、という考え方もあります。実際、両者に b9th を付け足してみると、Eb7(b9)は Eb, G, Bb, Db, E、C7(b9)は C, E, G, Bb, Db となり、5つのうち4つが共通しています(異名同音は略記しました)。これは、7th(b9)の根音以外の4音が dim7 の和音となり、 dim7 は短三度移動について対称性を持つので、当たり前のことでもあります。
さて、以上のことは、長い年月を経て形成されてきた、機能的和声システムの一つの帰結として得られるものですが、これらを整理すると、次の2点が得られます。
- ルートが増四度離れたドミナント7thは同じ機能を有する
- ルートが短三度上のドミナント7thは同じ機能を有する
これらを敷衍すると、結局、短三度ずつ離れた合計4つの音をルートとするドミナント7th同士は同じ機能を有する、と言ってしまうことができます($C_{7} \simeq E^{\flat}_{7} \simeq G^{\flat}_{7} \simeq A_{7}$)。
もちろんこれは時には耳に馴染まないこともあるでしょうが、理論やシステムの拡張という意味で、このように考えることは全くナンセンスではないでしょう。また、これをドミナント7thだけではなく他のコードにも敷衍することも十分に発想としてありえます。
同様の論理は様々なポピュラー音楽の楽曲に見られますし、ベーラ・バルトークの有名な「中心軸システム」もその基本の部分はここで述べたものと同じと考えられます(エルネ・レンドヴァイ著/谷本一之訳『バルトークの作曲技法』)。
ここで述べたことを一つの前提知識として、これらの他の方面への拡張(コルトレーンチェンジ)や他の表現を用いた定式化について考えたことも少しずつ記していきたいと思います。
6月の演奏予定の方もよろしければご覧下さい↓
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