Kreisler 編曲の Londonderry Air (Danny Boy) について

Danny Boy という曲はセッションでもよく演奏されますが、元々は Londonderry Air というアイルランド民謡であり、ヴァイオリニストの Kreisler はそれに Farewell to Cucullain という題をつけて演奏しています。



僕はジャズを聴く前からこの曲の Kreisler 本人による演奏がとても心に染みいるようで大変好みで、また、この編曲もとても美しいと思っていましたが、この曲が「Danny Boy」としてスタンダード曲集に載っているのを見たり、それを用いてセッションを行ったりしたあとに考えると、この編曲はそれ自体かなり洗練されていて、いつ弾いてもとても心地が良いですし、ソロピアノなどへもかなり応用が出来そうです。

ヴァイオリンとピアノに加えてチェロも入っているトリオの譜面ならば imslp から無料でダウンロードもできます。


販売されている譜面を堂々と載せて議論するのははばかられるので、この中から、テーマの8小節目の進行にだけ着目したいと思います。

トリオ版では以下のようになっています(上の動画のものとはボイシングが異なります)。





一番注目したいのは1拍目の裏から3拍目にかけての4つの和音です。
トップノートは G,C,E,C と C Major のアルペジオであり、左手にはCの音が保たれています。一方内声には、Bbから半音ずつGに下りる動きとGから半音ずつEに下りる動きが存在します。
これを無理にコードシンボルにしようとすると上のような少し複雑な見た目になるでしょう。

この進行はいろいろな見方が可能だと思いますが、全体として3拍目のCへの解決を示している、というのはおおむね言ってよいと思います。
また、だとするならば、トップノートなどにCやEの音が出てきていることを意識すると、おおざっぱに言えば、D→T というよりは S→T といった方がふさわしいと思われます(G13sus4→Cなどはほとんどサブドミナントからの解決だと考えています)。雑に言うと「アーメン終止」です。実際、少し細かく見ると、最後の和音進行だけ見れば、FmM7→Cという動きであり、これは完全にアーメン終止です(言うなればサブドミナントマイナー)。

一方で、BbからGへ、またGからEへ半音ずつ下りる動きというのがありますが、半音ずつ下降する動きはドミナント進行の連続、つまりドミナント7thが4度進行を繰り返す動きを連想させます。
ここで、各ドミナント7thに対して b9th を想定し、根音以外がなす dim7 の和音が共通している、ということを利用して、ルートが短三度ずつ離れたドミナント7thを同一視する、ということを行えば(b9thを想定しなくても、たとえばそこで聞こえているスケールとしてコンディミを想定しても同じことです)、C7→F7=D7→G7=Bb7→C という4度進行の連続も見えてきます。
このように捉えれば、D7はそのままですし、その次のFmM7も、Bb7(#11)のアッパーストラクチャーと捉えることが可能です。


その他いろいろな連想は可能だと思いますが、この進行はこのような意味で、「マイルドな循環」あるいは「ドミナント7thの連続を予感させるアーメン終止」のようなものだと言えると思います。

これをドミナント7thの連続であることを強調したボイシングにするならば例えば下のようなものが作れるでしょう。



これだとちょっと音が増えすぎで澱んだ感がありますが、トップノートはCのアルペジオを維持しており、またフラット系のドミナントを使っていることもあって、「サブドミナント感」も維持されています。
これなどは、テーマ頭に戻るときに挟むちょっとした進行(普通は循環 A7→D7→G7→Cを用いるような箇所)などに応用が利くと思います。







6月の演奏予定の方もよろしければご覧下さい↓

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