移調と群作用2

先日の記事の続きです。


まず先日の記事の内容を軽く要約します。
「群」とは、何らかの「変換」を集めてきたようなものです。
そして、群の「作用」とは、その変換が具体的にどのように作動するかを指定したものです。


たとえば、前の記事では、「群」として、「0から11までの数字全体」を用意しました。これを$G$と書くことにします。($G$の要素はただの数字と区別するために上に横棒をつけて$\bar{0},\bar{1}$のように表しました。)
そして、$G$の各要素$\bar{g}$に対して、$\bar{g}$は「音を半音$g$個分上に動かす」という風に定め、これによって、$G$の、音全体の集合$T$への「作用」が定まります。
また同様に、$T$の部分集合全体の集合(=和音やスケールなど、「音の集まり」の集合)$\mathcal{P}(T)$に対しても、$G$の作用が定まります。

例えば、$\bar{4}$という$G$の要素を、$C^{\#}$という$T$の要素に作用させると、$C^{\#}$を半音4つ分上に上げた音、$F$が得られます。これは$\bar{4} \cdot C^{\#} = F$というように書かれます。

また、$\bar{7}$という$G$の要素を、$C_{\mathrm{maj}} = \{ C, E, G \}$という$\mathcal{P}(T)$の要素に作用させると、この和音の各音をそれぞれ半音7つ分上に上げてできる和音、つまり$G_{\mathrm{maj}} = \{D, G, B \}$が得られます。これは$\bar{7} \cdot C_{\mathrm{maj}} = G_{\mathrm{maj}}$とか$\bar{7} \cdot \{ C, E, G \} = \{ D, G, B \}$とかのように書かれます。




さて、ここで、同じ群$G$の、他のものへの作用を考えてみます。

ある円板を考えて、これを$D$と名付けます。半径だとか周を含むかだとかを気にしたい場合は、周を含む原点中心の半径$1$の円$\{ (x,y) \,|\, x^{2} + y^{2} \leq 1\}$のことだとしておきます。

そして、$G$の各要素$\bar{g}$に対し、それの$D$への作用を、「反時計回りに$30 \times g ^{\circ}$回す」こととして定めます。

たとえば、$\bar{4}$を作用させたときの点が動く様子は、「反時計回りに$120^{\circ}$回す」ということなので、以下のようになります。分かりやすくするために色を付けました。



次に、作用に対して、それの「固定部分群」というものを考えます。

これは、各点に対して、「それを動かさないような$G$の要素」を全部集めてきたものです。


上の円板の例では、円板の中心以外の点は、$G$の$\bar{0}$以外の要素によって必ず動いてしまうので、中心ではない点$x$に対しては、$x$の固定部分群は$\{ \bar{0} \}$という一個の要素のみからなる群になります。

しかし、円板の中心だけは、$G$のどんな要素によっても動かないので、中心$O$については、$O$の固定部分群は$G$全体になります。




このような考え方を、もとの移調の例に戻して考えると、ほとんどの和音や音階は、上の円板の例の「中心以外の点」のように、$G$の$\bar{0}$以外の要素を作用させると他のものに変わってしまいますが、一部の例(シンメトリカルスケール!)については、ある種、上の円板の例の「中心」のように、$\bar{0}$以外の要素を作用させても「動かない」ということがありえます。


この観察を元に、次回の記事でシンメトリカルスケールを簡潔に定義したいと思います。

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