移調と群作用1

群とその作用という数学的な概念を用いて「移調」を言い換えてみたいと思います。
これによって特に新たな知見が得られるかどうかは分かりませんが、一つの思考の整理方法として提示します。


群と作用の定義についてはここで書くと長くなるので、Wikipedia の記事へのリンクを貼っておきます。
群 (数学) - Wikipedia
群作用 - Wikipedia


さて、以下、位数12の巡回群$\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$を短く$G$と書くことにします。
$G$の元を、上に横線をつけて、$\bar{0},\bar{1},\bar{2}, \dots, \bar{11}$で表します。

それと別に、12個の元からなる音の集合$T = \{ C, C^{\#}, D, D^{\#}, E, F, F^{\#}, G, G^{\#}, A, A^{\#}, B \}$を用意します。


このとき、「移調」は、$G$の$T$へのある作用と捉えることができます。

すなわち、ある$G$の要素$g \in G$と、ある音$t \in T$に対し、$g \cdot t$を、「音$t$を半音$g$個分上に移動したもの」として定義します。

たとえば、$\bar{3} \cdot C$は、$C$を半音3つ分上に移動したものなので$D^{\#}$ですし、$\bar{8} \cdot F^{\#}$は、$F^{\#}$を半音8つ分上に移動したものなので$D$です。

このようにすると、数学的な概念である群作用の定義を満たしていることが容易に確認でき、群$G$の集合$T$への作用が定まります。


この作用は推移的(transitive)です。すなわち、どんな二つの音$t, t' \in T$に対しても、うまく$g \in G$を選べば($t'$が$t$から見て半音何個分上なのかを見れば良い)、$t' = g \cdot t$とすることができます。
また、この作用は自由(free)でもあります。すなわち、どの元$t \in T$に対しても、$g \cdot t = t$となるのは$g = \bar{0}$となるときに限ります。



さて、この作用はあまり面白くはありませんが、これを自然に$T$の冪集合$\mathcal{P}(T)$への作用に拡張すると、少し面白いことが得られます。

$T$の冪集合$\mathcal{P}(T)$とは、$T$の部分集合全体の集合です。音群の集合、コードやスケールの集合などと言い換えてもいいでしょう。

さて、$G$の元$g$と、冪集合$\mathcal{P}(T)$の元$S$(つまり$T$の部分集合$S$)に対し、$g \cdot S$を、
\[
\{ g \cdot s \, | \, s \in S \}
\]として定義します。つまり、$S$の元一個一個を半音$g$個分だけそれぞれ上に動かしなさい、というだけのことです。

これはまた群作用になっていることが容易に確かめられます。しかしこの作用はさきほどの作用に比べて格段に複雑で、推移的ではない(あるスケールを平行移動しただけで任意のスケールにできるわけではもちろんない)し、自由でもない(半音いくつか分平行移動したら全くもとの音群と同じになるものが存在する)です。

これを用いると、シンメトリカルスケールも簡潔に定義できますが、それは次回以降に書くことにします。

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