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ある音列を含むシンメトリカルスケールの簡潔な表記

数式を用いた音の集合の表記の話題です。この記事の続きになります。

少し話を整理します。まず、音全体の集合をTとおきました。すなわち、
T = \{ C, C^{\#}, D, D^{\#}, E, F, F^{\#}, G, G^{\#}, A, A^{\#}, B \} です。

また、Tの要素を、「長三度離れている音どうしは同じグループに属する」というルールで分別したものをT_{\mathrm{AUG}}と書いていました:
T_{\mathrm{AUG}} = \{ \{C, E, G^{\#}\}, \{C^{\#}, F, A\}, \{D, F^{\#}, A^{\#}\}, \{D^{\#}, G, B\} \} これは4つの要素からなる集合です。

そして、TからT_{\mathrm{AUG}}へ、自然な写像p_{\mathrm{AUG}}を定義しました。これは、「音に対して、その音を含むグループを対応させる写像」です。


さて、ここでは次のような問題を考えます。
あるコードが与えられたとき、そのコードを含む最も小さいシンメトリカルスケールは何か?


ここで、最も小さいというのは、そのコードを含むためには必要がないような余分なものが入っていないということです。あるコードをすっぽり含むスケールのことを広く「アベイラブルスケール」と呼ぶならば、上の問題はおおざっぱにいうと
あるコードが与えられたとき、そのコードのアベイラブル・シンメトリカル・スケールの中で最もそのコードを特徴付けていると言えるものは何か?
とも言い換えられます。


さて、この記事で述べたように、あるスケールないし和音が「オーグメント的な」対称性を持っていることは、あるT_{\mathrm{AUG}}の部分集合の、p_{\mathrm{AUG}}による逆像となっていること、と同値です。

それで少し考えると、上で述べた「そのコードを含む最も小さいシンメトリカルスケール」は、「オーグメント的なもの」の話に絞ると、次のように表記できます:
コードC \subset Tを含む最も小さい「オーグメント的な」シンメトリカルスケールは、
p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C )) です。


たとえば、CメジャーC_{\mathrm{maj}}を含む最小のオーグメント的なシンメトリカルスケールは、俗に「Cオーグメントスケール」と呼ばれている以下のスケールです:
C_{\mathrm{aug.scale}} = \{C, D^{\#}, E, G, G^{\#}, B\}

これはつまり数式で表現すれば、
p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{maj}} )) = C_{\mathrm{aug.scale}} = \{C, D^{\#}, E, G, G^{\#}, B\} ということになります。

同様にメジャーセブンスやマイナー、マイナーメジャーセブンスやセブンス、マイナーセブンスなどについてやってみると、
p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{maj7}} )) = C_{\mathrm{aug.scale}} p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{m}} )) = C_{\mathrm{aug.scale}} p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{mM7}} )) = C_{\mathrm{aug.scale}} p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{7}} )) = D^{\#}_{\mathrm{Tchel}} = \{D^{\#}, E, F^{\#}, G, G^{\#}, A^{\#} B, C, D\} p_{\mathrm{AUG}}^{-1} ( p_{\mathrm{AUG}} ( C_{\mathrm{m7}} )) = D^{\#}_{\mathrm{Tchel}} となります。
ただしD^{\#}_{\mathrm{Tchel}} 前の記事で述べたチェレプニン音階という名前の9音音階です。

このようにみると、たとえばオーグメント的なシンメトリカルスケールの立場から見ると、Cmaj、Cmaj7、Cm、CmM7 は全て同じですが、C7やCm7だけは違うものになっています。


\mathrm{AUG}\mathrm{DIM}など他のものに取り替えればその都度他の種類のシンメトリカルスケールについても同様の話が展開できます。それらをすべて組み合わせれば、最終的に
あるコードが与えられたとき、そのコードを含む最も小さいシンメトリカルスケールは何か?
という問いにある意味で答えられるということになります。

2 件のコメント:

  1. 友人に紹介されて読ませていただいています。大変興味深いです。こちらのブログを読ませていただいて、大学オーケストラOBの先輩とシンメトリカルスケールの話になり「全音音階でもヴァイオリンで音程をどこに定めるかに苦労する」という話から、バルトークのオーケストラのためのコンチェルトの話になりました。

    このAugmentScaleというのは半音で1-3-1-3-1-3の間隔をもっていますが、バルトークは同曲の第5楽章の499小節目あたりから使っています。当然、メシアンの移調の限られた旋法にあるだろうと思ったのですが、第3旋法(1-1-2-1-1-2-1-1-2)の部分集合になりますが、メシアンはこれを独立の旋法には数えていません。なんでですかね。

    いずれにせよ非常に特徴ある音階なのでそのままではきつすぎますが、多少音を補ったりして使うこともあります。

    別にオチのある話ではないのですが、今後とも愛読させていただきます。メシアンの旋法(というよりスケールですが)についてはこちらに書きました。ご存知とは思いますが。

    http://jun-yamamoto.hatenablog.com/entry/2019/01/18/162021?_ga=2.103774912.1114345261.1563853412-1714162519.1558873095

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    1. コメントありがとうございます!

      1-3-1-3-1-3をメシアンがあまり特別視していないのは私も不思議に思っていました。第3旋法に含まれるといえばそうですが...

      1-3-1-3-1-3の具体的な使用例はジャズのアドリブでも見られ(Chick Coreaのアルバム'Super Trio'での"Windows"など)、近々それもトランスクライブしたいと考えています。


      そちらのブログも拝読させていただきます。ブログはまだ迷走中ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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